第27回 木曽泰博作品展  (創作文化刺繍)
例年文化刺繍ファンに好評の「木曽泰博文化刺繍・作品展」が6月8日より14日まで東京交通会館・B1エメラルドルームで開催されました。
会場には、先生のオリジナル作品をはじめ、先生主宰の文化刺繍教室の創作作品も同時に展示され、糸と刺繍のマジック…「木曽泰博の世界」をご堪能戴けました。サイトでは、今回の出展作品より数点をご紹介します。なお、教室など詳細につきましては、下記までお問い合わせください。
略歴
 昭和11年 東京都台東区生れ以後台東区に居住
 昭和35年 東京学芸大学美術科卒業
 昭和42年〜平成23年 (財)日本手工芸協会理事
 平成21年 文部科学大臣社会教育功労者賞・受賞
木曽泰博文化刺繍教室
東京都台東区柳橋 2-2-10
TEL:03-3861-1757

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 この風景は人家のある村から20分ほど山を登ったところで右側の雑木の先には大きな池がある。五月の新緑のころで松阪市の郊外だが市内といっても村といった方がよい。
 この作品の上付近には雉や山鳥、ウサギが住んでいる、最近では猪や鹿、そして猿も増えて農作物の被害があり田畑と山林の境に金網フェンスを作り、畑を守っている。
 畑のほとりに座ってスケッチに飽きてぼんやりしていると、正面のどこかでキジが鳴いた、ケーンケーンと二声きこえた。山を眺め雉の声をきいて思い出した。
 この作品の中に見える山、少し登った雑木林で猟をしたことがある。まだ若い時のことで散弾銃をもってこの村に住む従弟と私に少し慣れている二匹の紀州犬と共にである。犬たちは私を飼い主の友人と思っているらしい。ずいぶん昔の冬の事だった。

新緑の里山
 鳥や兎は犬が追いだしてくれなければ人だけでは難しい。兎を見つけた犬はワンと一声鳴いてあとは黙っておいかける。兎は追われると自分の縄張りを自分の道を通って、戻ってくる、通り道で待っていると「カサカサ」と落ち葉を踏む音がきこえ兎が戻ってくる。
 見つけた兎を撃つ、散弾銃は数十メートルの先で数メートルに広がるのだがそれでも外れる、犬は銃の音で戻ってくる、獲物があれば褒美をもらえることになっている。しばらくして又「カサカサ」また外れた。犬が戻ってきた私のそばにしゃがんで「ハァハァ」と私を見上げて「あんたは下手やなあ、私は疲れた、もうかんべんして」といっている「そうだなあ、もうやめにしよう」一山も二山も山の中を歩き回ったのだから十分疲れている。他の日にも何度かこの付近を歩き兎のほかに雉や山鳩が出たが一度も当たったことがない。
 私が中、高校聖廼ころ、テレビも普及していない頃、映画が娯楽の主役だった。休みの日は映画館に行くそして西部劇ばかり観ていた、主役は十の名人で、コインを空に投げて早打ちでコインに命中させ穴をあける、などといううものであった。100%信じたわけではないが、20メートル先の兎に2メートルほどにも広がる散弾があたらない人とは雲泥の差である。殺生しなくてよかったと負け惜しみを言っていたが他人の撃った獲物は「うまい、おいしい」と食べる。勝手な性格だと思う。これまで雉。山鳥、カモ、ウサギ、コジュケイ、山鳩、しか、猪、など食べたが私が一番だと感じたのは山鳥だった。
 絵の正面にある山を越えてゆくと本居宣長の墓所があり、下りになってやがて松阪の市街に出る、東京に帰るの何度か歩いたことがあったが今はとても無理でその気も起らないが、そのころは谷のおくまで田畑が開かれていたが今は放置されいる、道もなくなってしまったかもしれない。

みおぼえの雉の声する峠道     泰博


 春の三十三間堂、私が学生の頃,初めて接した仏の一つであり、その後も市内で交通の便も良いので度々拝観している。観音が有名だが、風神、雷神など様々な像があって素晴らしい。このときは孫二人と家人と拝観した。堂の東側に朱塗りの回廊が完成していてしだれ桜、椿など花盛りであった。寺院の回廊は朱塗りだった、古色を帯びた本堂とは違うが、朱色を背景にした花々を眺めた。たしか連子窓の向こう側は宗達のある養源院だったか、とおぼろげである。孫は二度目だがどんな記憶があるのだろうか、自分がはじめてここへ来たのは高校の修学旅行かもしれない、いずれにしても自分の記憶は断片的であいまいが多い。

春の蓮華王院(しだれ桜)
(三十三間堂

春の蓮華王院(つばき)
(三十三間堂
 作品を作っているときは音楽を聞いている、目と手は仕事があるが耳はあいている、モーツアルトが多いがバレイ音楽を聴くこともある。だいぶ前のことだがモーツアルトのバイオリン協奏曲5番を聴いていてびっくりした。いつかは忘れたがどこかで見たらしいミッキーマウスの映画に使われていた音楽だった、白黒映画でミッキーが悪者に追われている場面がこの音楽であった、とても印象深かったのだが、映画音楽は作品に合わせて作られるものと勝手に思ひこんでいたから転用するものとは思っていなかった、「5番を聴いたとき突然納得した。バレイ音楽「コッぺリア」を聴いたときも同じもっとびっくりした、「「ローランプチ」という人の作品がテレビでまだ白黒だったが放映された、音楽の最初の部分に聞き覚えがあったからで、それは自分が中学生の頃通っていた映画館でいつも聞くニュース映画のテーマ音楽であった。今は映画館に行くこともないが、そのころは必ずニュース映画があって20世紀フォックスとかワーナーブラザーズなどが制作したもので(どちらのものか忘れたが)それが「コッぺリア」だった。
 「フィリピンのパルガス大統領は。。。。。」などとナレーションがありそれがすんで映画が始まった。
 現在も二つの曲ともよく聞くリストになっている、「コッぺリア」を聴くとニュース映画の20世紀フォックスのサーチライトが見えてくる。モーツアルトのバイオリン協奏曲5番を聴くとミッキーマウスが追いかけられる場面になる。
 私にはモーツアルトよりもミッキーマウスのマンガが先で、コッぺリアよりも西部劇が先になっていて、その順番は変えられないでいる。自分には曖昧な記憶も多いが、固定しているものもある。
 二つの作品は同じ日に取材したものである、しだれ桜と椿の花が同時に楽しめる。

朱の回廊花をそなえて千観音     泰博


 年末の休みに千葉の意勝浦に行く、海があり朝市がある、若い時には釣りを楽しんだこともあって、この地になじんでいて作品もずいぶん作った。この風景は上総一ノ宮の郊外で田園に水がたまっている、休耕田ではないかと思う。勝浦に行く途中に立ち寄った、ここに知り合いのガラス職人が工房を構えている。
 上総一ノ宮駅を下車して駅から近い一宮に参拝した、神社の名前は失念したが一宮と聞いて想像したのより小さな社であったが、それでも由正しい町の神社という風格であった。年末のことで初詣の準備が、氏子らしき人たちが働いていた。

上総一の宮郊外の風景 1

上総一の宮(さざんか)2
 ガラス工房では素人にも教えてくれる、二人の孫が女主人に手伝ってもらってコップ作りを始めた。小さな工房だが800度の炉に灯が入っているという。私はコップ作りには参加せず外に出て歩き回った、ここは駅から車で10分程の郊外で特別のものはなさそうで、何軒かの家屋がみえ水のたまった田畑が広がり枯草が覆っている、人影はなく、雑木林や森が見え、遠くに犬の声がする。静かである。
 この作品の景色は工房をでたところで、西の方角だと思う、1.の作品は左の方角で2.は右側に見える、パノラマにしたいと思ったが正面には面白い景色はなかった。
日本の食糧自給率は40%ほどと聞いたが、その現実を見ているようで、休耕田にしておくと雑木が生え、元に戻すには大変な時間がかかるという。
休耕田にすると「よいこともある」と工房の主人は言う、ホタルが戻ってきたいう「農薬を使わなくなったから」らしい。ここのホタルは源氏ホタルではなく「もうすこし小さい」とか、どんなホタルか私にはわからないが、そのホタルはこれまでどこで生き伸びていたのだろうか。
 2.の作品と同じ構図の作品を作った、ほんの少しだけ見る位置を変えてみたものです。特別な構図があったわけではなく田圃にたまった水が様々だったので変えてつくった。

上総一ノ宮郊外風景 3
夏ならば蛍見ゆると休耕田     泰博
山茶花や休耕田に人みえず    泰博


 
年の暮れ勝浦湾の夕暮れ時、対岸は鵜原地区で左方向に海中公園がある。この作品は以前に制作したものだが、上総一ノ宮の続きとして取りだした。昨年(平成26年)の年末は雨で外に出られず作品も作れなかった。
 この日午後から雨が小やみになって外に出てみたが名物の朝市も休みで町中閑散としている。朝市が開かれる近くに、ひな人形を石段に飾ることで知られる遠見岬神社がある。社は人形を飾る例の長い石段を登りさらに参道を行くことになる。雨と嵐なので社に行くのは中止にした。
 社務所は参道の入り口にある。登らなくてもよい。そこにはお札などとともに「おみくじ」も用意されていた。勝浦はこのあたりも有数の漁港である。「おみくじ」も「魚」の形をしている紙張子になっている。とてもかわいらしい、赤い魚と青い魚がある。赤は背びれに、青は尾びれに「みくじ」が差し込んである。青は「海運 勝男みくじ」赤は「海運 金女みくじ」とある。「カツオ」と「タイ」かと思ったら神職らしき人が「カツオ」と「キンメダイ」と教えてくれた。「中の御籤はどちらも同じ」です。私は昔この港から沖に出て鯛釣りを何度か経験していたし、勝浦の隣町の小湊は鯛ノ浦でよくしられている。キンメダイは紀州で釣ったことがあるがここで釣れた事はなかった。この沖にも生息いしているのだりうか。
 「勝男」と「金女」と誰かがシャレたらしい。自宅にこの御籤がビニールの包装のままに飾ってある。赤が二個、青が一個。恩師の倉田三郎先生の絵のとなりにかけてある。開封してないので、吉か凶か不明になっている。しばらくこのままにしておきたい。
 この絵の左側は太平洋、右は砂浜になる、船は左方向から海に出る、その途中に岩礁があって赤い鳥居が立っている。遠見岬神社のものである。ホテルの前は砂浜になっている、そこにも鳥居がある。どうしたわけか「貴船神社」のものであった。

年の暮れ勝浦湾
吉凶も赤と青あり年の暮れ     泰博
暮れの雨朝市なくてもてあまし   泰博


菜の花(山の辺の道)

柿の木と菜の花(山の辺の道)

 山の辺の道を中ほどの長岳寺から天理市に向かってしばらく歩くと開けた景色の場所に出た。柿の木の新緑が見え、菜の花の盛り頃で穏やかな日和であった。むせたような菜の花の匂いがあり、その向こうに木立と家並みが見える、左には遠く畝傍山がのぞまれる。
 左の絵は菜の花の向こうに若葉を付けた柿の木があり桃の花も少し見える、左の作品よりも少し歩いたところに二上山も望まれる。


 これは晩秋の山の辺の道、景行天皇陵の見える場所で、とても気に入ってる風景で何度も作品にしている、その都度違ったものができるが、いつも完成してから反省している、景色は気に入っているのだが、作品はいつも気に入らない。


景行天皇陵(山の辺の道)


 新宿御苑にある日本庭園の池のほとりに桜が咲く、作品を作ったことがある。
今年も「咲いているかな」と新宿で画材を求めた帰りがけにより道をした。
同じように咲いていた、
同じいように鯉が泳いでいたが、
池の上に枝を伸ばし花をつけた桜の影に「かるがも」が一羽浮かんでいた。

かるがもと桜

かるがもや静かに浮かぶ花の影     泰博


 春遅く唐招提寺に詣でに出た。
近年大改修された金堂に向かい多くの仏像に手を合わせた。
長い期間の改修を知った時は再びここにたてるとは思ってなかったので、自分が元気で、この目で仏像を拝観できたことに大変幸せなことと思った。
大改修完了ときいていたが、どこが改修されたか分からない。改修作業の映像をテレビで何度も見たのだが、巨大な仏像を見ても、昔と変わらない姿であった。
仏像の中で個人的に「千手観音」が贔屓である。

 1.の作品は、南大門、金堂講堂があり、その裏側になる。作品のなかの建物は講堂でその裏側になる、桜があり花は八分どうり散って地面一面をピンク色に染めていた。
 この寺院は交通の便もよく薬師寺も近い。自分は若い時から叔父とともに、子供を連れて、それに孫と連れ立って何度も来ているが裏の方まで来たのは初めてかもしれない。この裏側には鑑真和上座像の御影堂がある。拝観はできないが外から眺めた。
今は丁度若葉の季節である、芭蕉の紀行文「笈の小分」のなかに
「若葉して御目のしずくぬぐはばや」がある、文の中に「終に御目盲させ給付尊像を拝して」とあってこの句がある。

 350年前に芭蕉はこの季節に和上像を拝していた。桜は花が散り若葉が美しい、芭蕉はこの葉を見て発句したのかもしれない。
唐招提寺 晩春 1
唐招提寺 晩春 2


 二つの作品とも京都円山公園の桜で、「春陽」は昨年(平成26年)都美術館に出品しました。
26年の春休み孫二人と家人の四人でこの桜を見に行きました。当日は好天の昼間でこの作品のイメージとはずいぶん違いましたが
「清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢う人みなうつくしき」 与謝野晶子
この歌を思ひ、この地は祇園だからと春の宵のイメージにしました。
芭蕉の「奥の細道」のなかの「武隈の松」の段に次の句がある。
 「武隈の松みせ申せ遅桜」 挙白(芭蕉門人)
 「桜より松は二木を三月越」 芭蕉
有名な歌枕の松を見てください。と言われ江戸を立って三か月たって松を見ました、ということであろうか、本文の中で「松は昔の姿うしなわず」「千歳のかたちととのいて」とあり武隈の松は代々受け継がれて立派な姿を見ることができた。と書かれている。

 現在の円山公園の桜は二代目だという、植え替えられた時は20才の頃で、見たことは覚えているが、「植え替えられた」「たたそれだけ」で何の感想もなかったらしい
二人の孫に「あの桜は有名なさくらなのだから見て覚えておきなさい」と説明した。中一、高一の二人は何も感じる様子はなかったが、「桜を見た」ことだけは覚えておいてと念を押した。
いつの日か彼女たちがここにきて「千歳のかたちととのいて」いる桜を見ることがあれば、「昔見た」と思い出せば幸いである。

春 宵

夜 桜
 この作品は桜の花びらを細い糸で刺している。「春宵」の作品の色はピンクではなく藤色を使っている。
 文化刺繍の糸(りりやん)はほどける、それを利用する。ほどける大きさは3通りある。通常は(中)の大きさを利用している、ほどく前の糸は一反が6メートル弱でそれをほどいて布に約1センチ程度に刺してゆくと、8〜10センチ平方米刺し埋めることができる。、布に刺す回数は1.000回程になる、普通の早さで休みなく刺すとほぼ15分かかる。
 この作品の場合は地の色は中の糸で、花は細い糸を使用している。当然であるが細い糸を使用すると数倍時間がかかる。繊細な表現が欲しければやむを得ない。

 桜は毎年大量の花を咲かせ、すぐ散り始めるとしてもそのエネルギーはどこから来るのだろうか。
花の木の記憶のこせと子に伝え     泰博


 奈良般若寺のコスモスで境内にたくさん並んでいるその一体で石仏の周りは花に埋められている。この作品は少し前に訪れた時の資料をもとに制作した。
石仏はのざらしになっていてかなり傷んでいるものも多い。この仏も姿を少し変えある。

石仏とコスモス(般若寺)

・・・あとがき
 今年も作品展を開くことができました。
今回も作品を買ってくれた方、出品してくれた方、ご来場してくれた方々ありがとう、
お礼申し上げます。
 この一年体調不良もあって作品作りは2カ月できなかった、今年なってどうにか落ち着き仕事に戻れるようになった。この作品展の会場を確保するには一年前の予約が必要になっている。この頃には「来年はどうしようか」と悩んでいる、結局できる限り「頑張る」ということとなる。いつまで頑張れるのだろうか、作品展が制作の励みになっていることは間違いない。私には未だ作りたいものがあって、未練がましく原画を描いている、だがどうなりますか?
2014年 出展作品  

「lily-yarn」… リリヤーン、リリアン、リリヤンなどと呼ばれている。 なお、[ りりやん倶楽部 ] は株式会社山添商店のTRADE-MARKです